最初に、この連載の裏事情を白状します
本題に入る前に、先にネタばらしをしておきます。
この連載では、何かを売ることは一切ありません。高額な情報商材もオンラインサロンも出てきません。連載そのものも、最初から最後まで全話無料です。じゃあ何が目的なのかというと、私が運営している投資情報のWebサイトに人に来てもらって、ちょっと広告を貼って、安全に小銭を稼ぎたい。それだけです。情けない話ですが、それが全部です。
ただし、中身はかなり本気です。AIに「あなたは運が良いだけです」と切られ、3日で57万円を溶かし、そこからシステムトレードに逃げ込んだ実話です。
その前提で、気楽に読んでもらえたらと思います。語り手は、プログラミングほぼ未経験の塾講師。ここから、AIに叱られながらシステムトレードを組んだ顛末を話していきます。
投資家なら、誰でも持っている
株の売買を何年か続けている人なら、頭の中に「自分だけの勝ちパターンらしきもの」が、ぼんやりとでも溜まっているはずです。
たとえば、こんな経験はないでしょうか。
高値ブレイクが有効な戦略だというのは、よく知られた話です。だから多くのスクリーニングサービスが「新高値銘柄」を抽出してくれます。ここまではいい。
でも、チャートを長く見てきた人ほど、こう思っているはずです。
「1回目のブレイクは騙しが多い。一度ブレイクして、押して、もう一度超えてきた2回目のほうが、そのまま上に行くパターンが多くないか?」
「1回目のブレイクから3日以内に再ブレイクしたやつ、あれは強いんじゃないか?」
こういう「2回目」「3日以内」みたいな条件になった瞬間、一般的なスクリーニングサービスでは手が出なくなります。かといって自分で検証するのはハードルが高すぎる。
だから、どうなるか。
「いつかやろう」で終わります。やる気のある人でも、気が向いたときに挑戦して、途中で断念する。頭の中には検証されないままの戦略が溜まっていき、そのうち忘れていく。
何年もかけて相場を見てきた経験の中で育った「なんとなくの確信」。それはあなたにしかない資産なのに、具現化する手段がないせいで、ただ眠っている。
この連載は、その状況が2025年からのAIの急速な進化で大きく変わった、という話です。実体験を交えながら、事実ベースで書いていきます。
先にひとつだけ言っておくと、おそらく、いまあなたがイメージしているよりずっと簡単です。私の体感では10倍くらい。
私も「勉強しない高校生」だった
とはいえ、私自身が長年、まさにこの「いつかやろう」の人でした。
簡単に自己紹介すると、普段は塾で数学を教えている、どこにでもいる個人投資家です。数学は昔から好きで、統計にはそれなりに自信がありました。プログラミングは、Pythonをちょっといじったことがある程度。具体的に言うと、パチンコのボーダーをWebからスクレイピングして表にして満足するレベルです。API? 何それ難しそう、という状態でした。
私の頭の中にも、ぼんやりした戦略がいくつか眠っていました。
たとえば、レンジ相場の往復。レンジになっている銘柄を見つけて日々監視し、下の抵抗線にタッチしたら買い、上の抵抗線付近で売る。これを繰り返せば、なんとなく期待値が積めるイメージがありました。
それから、下げすぎた銘柄のリバウンド狙い。RSIが極端に低いのは急激に売られているサイン、という知識はあった。やばいニュースが出ているわけでもないのに投げ売られている銘柄は、買いなんじゃないか。そういう漠然としたイメージです。
でも、どれも「なんとなくいけそう」止まり。数字の根拠がないから、本気にもなれない。
根拠を与えるには膨大な検証作業が必要です。それを短縮する手段として、株のシステムトレードでは定番の検証ソフト(イザナミ)があります。誤解のないように書いておくと、これは非常によくできたソフトで、体験版は無料で使えますし、本格的にやるなら十分検討に値します。ただ当時の私には、製品版の15万円という価格が「趣味の妄想の検証」に踏み切るには重かった。それだけの話です。
で、いろいろ考えているうちに面倒になって、後回しにして漫画を読む。
テスト前に「明日から本気出す」と言って勉強しない高校生のムーブを、私は人生をかけてやっていたわけです。
転機の話をする前に——私は「予言」されていた
状況が変わったのは2026年の3月です。きれいな話ではありません。しかもこの話、恥ずかしいことに前フリがあります。
その少し前から、私はAIチャットに相談しながら株に本気で取り組み始めていました。きっかけは2025年5月、当時の最新AIモデルに触れたときの衝撃です。2023年にChatGPTが出たとき、高校数学の積分をやらせてみて「まあ、こんなものか」と放置した人間が、2年ぶりに触って背筋が伸びた。それくらい進化していました。
米国AI株の銘柄選定やポートフォリオ構築をAIと相談しながらやり、2026年からは日本株に移って、ノリでスキャルピングを始めました。これが妙にうまくいっていて、2月の実現損益はプラス57万円ほど。損をしたらAIに相談して戦略を修正し、また積み上げる。正直、天狗になりかけていました。
2月の中旬、私は調子に乗って、トレード履歴のデータをAIに提出しました。「まじめにやりだしてからのデータです」と、半分ドヤ顔で。

褒められると思っていました。実際、数字は改善していたんです。勝率は56%→61%、プロフィットファクター(総利益÷総損失。1を超えていれば勝ち越し)は1.24→1.54。
返ってきたのは、冷水でした。
収益は改善しましたが、リスク管理の欠如という根本的な病巣は全く治っていません。厳しい言い方になりますが、これは「まじめ(規律ある)」なトレードではなく、「運任せのギャンブルのレートを上げただけ」に見えます。
そこから延々と、数理的な根拠に基づくダメ出しが続きました。損切りラインの異常な広さ、利益が一発のホームランに依存している構造、特定銘柄への執着。そして総評がこれです。

総評:あなたは「運が良い」だけです。 データが示すのは「ストッパーを外して、より大きな金額でギャンブルをしている姿」です。 この銘柄を触り続ける限り、いつか「取り返しのつかない日」が来ます。
……普段、塾で生徒に数字の詰めの甘さを指摘する側の人間が、久しぶりに数字関係でガチで叱られました。しかも相手はAIです。動揺しました。動揺しましたが、反論できる材料がひとつもない。
で、私はどうしたか。
聞き流しました。 だって勝ってたんだもん。
「取り返しのつかない日」は、2週間後に来た
3月に入って、3営業日でこうなりました。
2月の実現損益:+568,248円

3月3日〜5日の実現損益:−573,808円

差し引き、マイナス5,560円。
1ヶ月かけて積み上げたものが、3日で、ほぼ1円単位の精度で消えました。ここまで美しく相殺されると、もう笑うしかありません。AIが言った「取り返しのつかない日」が、宣告からちょうど2週間後に実際に来たわけです。
呆然としながら、はっきり分かったことがひとつ。このまま裁量トレードを続けたら、いつか本当に破産する。
報告すら、できなかった
ここで「AIに泣きついて再起を誓った」と書ければ格好がつくんですが、実際は違います。
報告できませんでした。
あの総評を突きつけてきた相手に「言われたとおりになりました」と報告する勇気が、私にはなかった。また数理的な根拠つきで詰められるのが怖かった。要するに、宿題をやってこなかった生徒の気持ちです。普段は詰める側なのに。
だから私は、負けの報告を握りつぶしたまま、黙って別の相談を始めました。「システムトレードを組みたいんですが」と。
実は、システムトレードへの移行自体は前々からAIに言われていたことでした。ルールを決めて機械的に処理するほうがあなたには向いている、と。そして相談を始めると、AIは最初の具体案として「こういう下げすぎ銘柄の逆張りを、まず検証してみませんか」と出してきました。
……ん? それ、私の頭の中で何年も眠っていた「下げすぎリバ狙い」と、ほぼ同じ発想です。
正直「AIが軽く出してきた方法なんて大したことないだろ」と思いました。でも、どうせ失うものもない。勢いに任せて、組み始めました。
1週間も経たず、初期運用が始まっていた
ここからの展開が、この連載を書こうと思った理由そのものです。
繰り返しますが、私のスタート地点は「パチンコのスクレイピングで満足していた人」です。APIが何なのかも分かっていない。そこからAIに聞きながら——
- Pythonの環境整備
- データ配信サービス(J-Quants)からの株価データ取得
- 「下げすぎ逆張り」戦略のルール化
- 過去データでの検証(バックテスト)
- パフォーマンス確認
初期版として動かすところまでは、1週間かかっていません。その後、仕様を固めるまでには、さらに試行錯誤を重ねています。
誤解のないように言っておくと、この1週間で私がコードを書けるようになったわけでは全くありません。今もコードは書けません。すべてコピペです。AIに「こういうことがしたい」と日本語で伝える→出てきたコードを貼り付けて実行する→エラーが出たらそのエラー文をそのままAIに投げ返す→直ったものをまた貼る。この繰り返しだけです。
最近「バイブコーディング」という言葉が流行っていますが、あれはつまりこれのことです。もちろん、サービスとして世に出すためにしっかりした設計でバイブコーディングをしている方はたくさんいます。私のはそういうものではなく、コードは乱雑でいい、計算さえ妥当なら個人利用にはそれで十分、という割り切りです。使うのは自分ひとりですから。
バックテストを回してみたら、まともな数字が出ました。「これはイケるかもしれない」。簡易的な日次の運用フロー(これもAIに相談して)だけ整えて、実際の取引を始めました。
買付金額は少なめ、対象はマイナーな銘柄が多く値動きも緩やか。毎日画面に張り付いて心臓を削るデイトレの恐怖から解放されて、むしろ安心感すらありました。そして週に2〜3万円ずつ、利益が静かに積み上がっていく。数字の根拠があるから、ルールから逸脱しない。「ああ、自分はこっちが向いていたんだ」という手応えがありました。
念のため補足すると、この「1週間で利益」の部分に再現性はありません。相場のタイミングも含めて、最初の一歩がいきなり形になったのは運が良かった。実際、この後に開発した他の手法(高値ブレイク系、アービトラージ系など)は、ほとんどがバックテストの段階で使い物にならないと判明してボツになっています。
ただ、ここで強調したいのは利益のほうではなくて、「取引をするための合理的なシステム一式が、未経験者でも1週間で組み上がった」という事実のほうです。そして、ボツになった手法たちは1円も失わずにボツにできた。夢の戦略は過去データの上で先に死んでくれる——これがシステムトレードの隠れた最強ポイントなのですが、その話は連載の中盤でじっくりやります。
費用の話と、ひとつの告白
「そうは言っても、お金がかかるんでしょう」と思った方のために、実感値を置いておきます。
私がシステムの維持に払っていたのは、株探(有料ニュースサービス)を除けば月1万円以下、全部込みでも月1万円前後です。内訳はAIチャットの課金とデータ配信サービスの利用料くらい。詳細は第1回で全部出します。
毎営業日の夕方に自動でスクリーニングが走り、候補銘柄がスマホに通知され、私は最終判断だけ自分で下す。そういう生活を数ヶ月続けました。ちなみに投入する金額はシステムとは無関係に自分で決められるので、少額から始めても仕組みは全く同じです。
そして、ひとつ告白しておくと——このシステムは今、止めています。
「なんだ、結局失敗したのか」と思われそうですが、そうではありません。停止には合理的な理由があって、むしろ私はこの「止める判断」を、システムを作ったこと自体と同じくらい大事な話だと思っています。感覚で止めたのではなく、数字で止めた。この経緯は連載の中でしっかり書きます。ずっと勝ち続けている人間の武勇伝より、よほど役に立つ話のはずです。
この連載で話すこと
まとめます。この連載で伝えたいのは、たったひとつです。
いま世の中には「AIにおすすめ銘柄を聞いてみた」「AIに株価を予想させてみた」というコンテンツが溢れています。それはそれで面白い。でも私が本当に価値があると思うのは、逆方向です。
AIに答えを聞くのではなく、あなたの頭の中の暗黙知を、AIの力で形にする。
これまで相場に向き合ってきた人の頭の中には、検証されるのを待っている戦略が眠っています。それを具現化するコストが、2025年からのAIの進化で劇的に下がりました。さらに2026年7月現在、AIエージェントの高性能化で、環境はもっと簡単になっています。地味に積み上げてきた経験が、むしろ価値を持つ時代になったんです。
先に釘を刺しておくと、これは「AIに任せれば安全」という話ではありません。むしろ逆です。AIは間違えるし、私はもっと間違える。だから間違いが事故になる前に捕まえる仕組みを、二重三重に組んだ——そういう試行錯誤の記録です。
次回以降の予定です。全9回+この第0回、少し長い旅になります。
- 第1回:必要な道具立てとお金の話。月1万円あればお釣りがくる
- 第2回:システムの全体図と、「ぼんやりした戦略」をAIとの会話でルールに変える方法
- 第3回:環境構築と、株価データが手元に届くまで——エラーは出ます。でも、あなたが直す必要はありません
- 第4回:はじめてのバックテスト——過去データで答え合わせ、数字が「正直」になるまで
- 第5回:夢の戦略は机の上で先に死んでくれる——2つの手法を凍結するまで
- 第6回:完成したシステムの全貌——毎日動く仕組みと、帰宅したら届いている通知
- 第7回:定性フィルターの中身——AIに「買ってはいけない銘柄」を判断させる
- 第8回:93銘柄の成績表と、システムを止めた日
- 第9回:エキシビジョン——書ききれなかった小話と小技の詰め合わせ
各回、本文は今日と同じ温度感で書きます。ところどころ挟まるガチな数字や技術の話は、読み飛ばしてもらって構いません(読みたい人向けのパーツです)。
最後に、ひとつだけ。
もし手元にAIチャット(無料版でかまいません)があるなら、あなたの頭の中の「あの戦略」を、雑談のつもりで話してみてください。「レンジの下限で買って上限で売るのって、ルール化できる?」くらいの雑な聞き方でいい。
返ってくる答えの解像度に、たぶん少し驚くはずです。それが最初の一歩です。
次回・第1回:「必要なのはAIチャットとデータだけ。月1万円あればお釣りがくる」——道具立てと費用の全部を公開します。
免責事項:本記事は筆者の実体験に基づく情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄・手法・サービスへの投資や購入を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。