今回は「買い物リスト」の話
第0回では、AIに「あなたは運が良いだけです」と予言され、2週間後にその通りになり、報告する勇気もなく黙ってシステムトレードに移行した話をしました。
今回はその続きとして、実際に何を使って、いくら払ったのかを全部出します。結論から言うと、私が使ったのは以下の7つ。特別なものはひとつもありません。
| 使ったもの | 役割 | 費用 |
|---|---|---|
| 生成AIチャット(Gemini) | 技術作業の担当+戦略の相談相手 | 月 約3,000円 |
| 生成AIチャット(Claude) | セカンドオピニオン担当 | 月 約3,000円 |
| Gemini API | システムに組み込んだ自動チェック係 | 月 500円でお釣り |
| J-Quants | 日本株の株価データ配信 | 月 約1,500円 |
| Discord | シグナルの通知が届くアプリ | 無料 |
| 株探 | 銘柄の最終チェック | 無料〜(後述) |
| SBI証券 | 発注。普段使いの証券口座でOK | 無料 |
パソコンは、家にあった15万円くらいのデスクトップPCです。BTOショップで普通に売っているようなPCなら、どれでも問題なく動くと思ってもらって大丈夫です。これで十分ストレスなく作業できました。もっと低スペックでも実現自体は可能だと思います(ただ、あまりに非力だと待ち時間でストレスは溜まるかもしれません)。
これらが具体的にどう繋がって1つのシステムになっているのかは、次回、図解つきでじっくり説明します。今回はまず、それぞれが何者で、いくらかかるのかの話です。「もう知ってるよ」という方は、後半の「いくらの構成で始めるべきか」まで飛ばしてください。
道具の顔ぶれ
生成AIチャット(技術の担当者であり、戦略の相談相手)
主役です。ただし、役割が2つあることをはっきり書いておきたい。
1つ目は、技術的で作業コストの高い部分を全部引き受けてもらう役割。コードを書く、開発環境を整える、データを使える形に整形する——第0回で書いたとおり、私はコードが書けないので、ここはAIに任せきりです。「株価データを取ってきて、25日移動平均から◯%下がってる銘柄を抜き出したい」と日本語で言えば、コードが出てくる。貼って動かして、エラーが出たらエラー文をそのまま投げ返す。作業時間の大半は、このやり取りです。
2つ目は、手法・戦略について対等な立場で議論する相手としての役割。ここが大事なところで、戦略をAIに丸投げしたわけではありません。「下げすぎた銘柄を拾いたい」という私の考えに対して、AIが「では下げすぎをどう定義しますか」と返してくる。私が「こういう銘柄は避けたい」と言えば、AIが「その条件だとこういう副作用があります」と返してくる。人間同士の戦略会議とまったく同じ形の応酬です。しかも議事録はAIが勝手にまとめてくれる。
技術はAIに任せる。戦略は対等に話し合う。この連載で伝えたい役割分担は、最初から最後までこれです。
もう1つの生成AI(セカンドオピニオン担当)
これは私が声を大にして言いたいポイントです。メインのAIとは別のAIをもう1つ持っておく。
私のような、知識も技術も不十分なまま見切り発車した人間には、「優秀な第三者」を適宜挟むことが決定的に重要でした。メインAIと組み立てた戦略やコードの考え方を、別のAIに「これ、おかしいところない?」と見せる。人間の世界のセカンドオピニオンと同じです。同じAIに聞き直すより、別の頭で見てもらうほうが、思い込みや見落としを拾ってくれます。役割分担を先に言っておくと、Claudeは主に戦略設計・コードの方針・検証結果のセカンドオピニオンとして使いました。日々の運用の定性チェックは、GeminiのAPIとチャットが担当します(この体制は第2回で図解します)。
必須かと言われれば、最安構成では削れます。でも私は削らないことを勧めます。理由は連載の後の回(検証と運用の回)で、実例と一緒に出てきます。
Gemini API(自動チェック係)
——と、ここまで読んで「なんかツールがいっぱい出てきたな……」と感じ始めた方、安心してください。このあたりの道具や環境がどう繋がっているのかは、次回、図解で分かりやすく説明します。今日のところは「へー、そういうのがあるんだ」くらいの気軽さで読み流してOKです。
「API」という単語で身構えないでください。私も「API?何それ難しそう」から始めた人間です。ここではひとまず、チャット画面を人間が開かなくても、プログラムが直接AIに質問できる仕組み、とだけ思っておいてください。
私のシステムでは、毎日の候補銘柄について「この会社、やばいニュース出てない?」をAIに自動で聞かせています。人間がやると銘柄数ぶん検索する作業が、勝手に終わっている。費用は従量課金で、1シグナルあたり1円程度。月500円でお釣りがきます。
これも最初からは要りません。手動チェックで回し始めて、面倒になったら組み込めばいい。
J-Quants(株価データ)
日本取引所グループ公式の株価データ配信サービスです。全銘柄の日々の株価(始値・高値・安値・終値、いわゆる四本値)や出来高といったデータを、過去数年分まとめて取得できます。戦略の検証には全銘柄×数年分の株価データが必要で、これをどこかから調達しないと始まりません。
無料プランもありますが、取得できるデータに制限があります。私は「無料の範囲でやりくりする工夫に頭を使うほうが、逆にコスパが悪い」と判断して、詰まる前にさっさと課金しました。月1,500円ほど。ここは迷う余地がなかったです。
Discord(通知の受け口)
ゲーマー向けチャットアプリとして有名ですが、プログラムからの通知を受け取る場所として優秀で、無料です。
私のおすすめの使い方は、自分ひとりしかいない部屋(サーバー)を立てて、そこに通知を全部集めること。毎営業日の夕方、システムが「今日の候補はこれ」と投げてくれて、スマホに通知が来る。ついでに自分用のメモもそこに貼っておくと、PCからもスマホからも見られる作業ノートになります。地味ですが、この「自分専用の部屋」はかなり快適です。
株探(最終チェック)
候補銘柄の業績やニュースを人間の目で最終確認するのに使います。基本無料で、実際、私も途中まで無料版で足りていました。
課金した理由は少し面白いので書いておくと——私の手法は「下げすぎた銘柄を拾う逆張り」です。つまり相場全体が荒れるとシグナルが大量発生する。イラン危機のときに候補銘柄がどっと出て、1銘柄ずつ無料版でチェックしていたら時間がかかりすぎた。それで観念して課金しました(月3,000円ほど)。平時なら無料で十分です。無料お試し期間もあるので、必要を感じてからで大丈夫。
ちなみにこの「株探での最終選別」は、私のシステムで唯一、意図的に人間の手に残してある工程です。発注そのものは正直めんどくさいので自動化したい気持ちがあるんですが、この選別だけは自動化しない。なぜここだけ人間なのか——これは私のシステム設計で一番大事な話のひとつなので、定性フィルターの回でじっくりやります。
SBI証券(発注)
普段使っている証券口座でそのまま。特別な契約も設定も要りません。
で、いくらの構成で始めるべきか
私の実感ベースで、2パターン提示します。
最安構成:月5,000円以内
- 生成AIチャット×1(約3,000円)
- J-Quants(約1,500円)
- Discord(無料)
- 証券口座(無料)
これだけで、戦略のルール化→データ取得→検証→日々のシグナル生成まで、一通り全部できます。第0回で書いた「1週間でシステムが組み上がった」時点の私は、ほぼこの構成でした。
おすすめコスパ構成:月1万円程度
- 生成AIチャット×2(約6,000円)
- Gemini API(月500円以下)
- J-Quants(約1,500円)
- 株探プレミアム(約3,000円)
- Discord・証券口座(無料)
株探プレミアムまで含めると、月1万円を少し超えることがあります。平時は無料版でも回せるので、実質の維持費は月1万円前後という感覚でした。
セカンドオピニオン用のAIと、チェック作業の省力化を足した形です。私が最終的に落ち着いたのがこの構成。当時の私は、お金が一気に減った直後だったこともあり、とにかくできるだけ安く始めたかった。「月1万円で、しかもいつでもやめられる」という身軽さは、精神的に大きな支えでした。
「無料でどこまで行けるか」に正直に答える
よく聞かれそうな質問なので、先回りして答えておきます。
生成AIの無料版だけで作るのは、まず無理です。
試しに触ってみる、雰囲気を掴む、くらいはできます。でも無料版には利用量の上限があります。スマホの「ギガ」みたいなものだと思ってください。開発作業はAIとの長い往復の連続なので、無料版のギガでは作業がすぐ止まります。止まる→翌日また少し進む→文脈を忘れる→説明し直す、のループは、想像以上に心が折れます。
逆に言うと、すでにChatGPTなりGeminiなりに課金している人は、追加費用ほぼゼロでスタートラインに立っています。いま課金しているその枠を、そのまま開発に使えばいいだけです。
ClaudeとGeminiってどっちがいいの問題
生成AIを1つ選ぶならどれか。私はClaudeとGeminiの両方を使ったので、実感を書いておきます(2026年時点の個人の感想です。この世界は進化が速いので、読む時期によって状況は変わります)。
- 使い勝手がいいと感じたのはClaude。ただし約3,000円のプランだと利用量の上限が比較的早く来るので、休日に一気に組み上げるスタイルだと途中で止まる可能性があります。毎日仕事終わりに1時間ずつコツコツ型の人向け。
- Geminiは一気に作業したい人向け。私はもともとGeminiから使い始めたので、開発のメインはGeminiのままでした。
身も蓋もない結論を言うと、「すでに使い慣れているほう」がだいたい正解です。AIとの開発は対話の積み重ねなので、話し慣れている相手のほうが速い。
なお、2026年7月現在なら、もうひとつ「AIエージェント」という選択肢があります。チャットにコードを貼って動かして……という往復すら任せて、AIが自分でファイルを作り、実行し、直してくれるやつです。恐ろしく効率がいい。ただし効率がいいぶん、自分がいま何をやっているのかが見えにくくなるという側面もあります。仕組みごと学びたい人には、少し非効率でも「AIとチャットして、コピペして、動かして、結果をまた投げる」という私のやり方は、悪くなかったと今では思っています。とにかく速く形にしたい人はエージェント、学びながら進みたい人はチャット往復——ここは好みで選んでいい場所です。
意外と「要らなかった」もの
逆に、必要だと思われがちで要らなかったものリストです。
- ハイエンドPC:不要。前述のとおり、15万円クラスの普通のデスクトップで十分ストレスなく回りました。
- 証券会社のAPI(自動発注):不要。検討はしましたが、最初から発注の自動化まで組み込もうとすると、覚えることが一気に増えて認知負荷がきつい。まずは「シグナルは自動、発注は手動」で十分回ります。
- VPS(24時間動かすためのレンタルサーバー):不要。私のシステムは1日1回、夕方に動けばいいので、自宅PCで足ります。
要するに、「本格的にやるなら◯◯が要るんでしょ」と想像されがちな装備は、ほぼ全部後回しでいい。最初に必要なのは、AIチャットとデータと、あなたの頭の中の戦略だけです。
補足:専用ソフトという王道もある
最後にフェアな話をひとつ。日本株のシステムトレードには、イザナミという定番の専用ソフトが昔からあります。第0回で「15万円に尻込みした」と書きましたが、あれは私の懐事情の話であって、ソフト自体は非常によくできています。検証に必要な機能が最初から揃っていて、プログラミングもAIとの対話も一切不要。体験版は無料で使えます。
つまり道は2つあるということです。完成された専用ソフトで王道を行くか、AIと対話しながら月1万円で自分だけの環境を組み上げるか。私が選んだのは後者で、この連載は後者の記録ですが、前者を選ぶ人がいてもまったくおかしくない。体験版を触って比べてみるのも、良い判断材料になると思います。
今回のまとめ
やることは2つだけです。
- すでにAIに課金している人:そのAIに「日本株の過去データで売買ルールを検証したい。J-Quantsというデータサービスを使う場合、何から始めればいい?」と聞いてみてください。返ってくる手順の具体性に驚くはずです。
- まだの人:無料版でいいので、頭の中の戦略をひとつ話してみてください(第0回の宿題と同じです)。課金の判断はそれからで遅くありません。
次回は、道具たちがどう繋がって1つのシステムになっているのかを図解で示したうえで、いよいよ中身の話に入ります。「ぼんやりした戦略」が、AIとの会話でどうやって数字のルールに変わっていくのか。
次回・第2回:システムの全体図と、「ぼんやりした戦略」をAIとの会話でルールに変える方法
免責事項:本記事は筆者の実体験に基づく情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄・手法・サービスへの投資や購入を推奨するものではありません。記載の価格・プラン内容は執筆時点のものです。投資判断はご自身の責任でお願いします。