今回は番外編です

物語は前回で着地しました。システムを作り、動かし、根拠を持って止めた。連載として言いたいことは、すべて言い終わっています。

今日はエキシビジョンです。本編の流れに乗せられなかった小話と小技を、詰め合わせでお届けします。フィギュアスケートのエキシビジョンと同じで、採点はもう終わっているので、肩の力を抜いて滑ります。読むほうも、そのつもりでどうぞ。

ただ、詰め合わせとはいえ中身は選んであります。どれも「本編を読んでくれた人が、明日から使える話」です。


小技①:生成AIの「人格設定」は、雑から厳密へ

まず種明かしをひとつ。

第0回で、私のギャンブルトレードをAIが「運が良いだけです」と一刀両断した話を書きました。あの冷徹さには、実はタネがあります。私は普段、生成AIにこういう設定を入れています。

株や税金などのお金についての事柄に関しては、共感や忖度を排除し常に冷静で客観的かつ数理的な判断を求めたい。なおこの指示が適応される場合には、回答の最初に、適応されている旨を記載してほしい。

そう、あのブチギレは、素のAIではありません。私が自分で仕込んだ厳格モードが喋っていたんです。AIは基本、人間に共感して寄り添ってくれます。優しい。でもお金の話で欲しいのは共感ではなく、冷たい数字です。だから共感を切る設定を自分で入れる。頼んだのは私なのに、いざ斬られると腹が立つのだから、勝手なものです。

この設定文、地味に効いているのが後半です。「適応されている旨を回答の最初に記載してほしい」——これを入れておくと、回答の冒頭に「※厳格モードで回答します」のような宣言が付く。いまAIがどのモードで喋っているのかが、目に見えるようになります。設定というのは入れたことを忘れるので、この可視化はおすすめです。

ただし、注意点がひとつ。この設定を作業全体に効かせると、正直、うっとおしい。環境構築やコード修正のようなただの作業中にまで、いちいち冷徹に数理的判断を挟まれると、テンポが死にます。だからメリハリをつける。戦略を策定するとき、パフォーマンスを検証するときは厳格モード。手を動かす作業のときはオフ。特に、手法のパフォーマンスを確認するフェーズでは、絶対に厳格側に倒すべきです。ここで共感されたら終わりです。「素晴らしい戦略ですね!」と言われて嬉しいのは人間だけで、口座残高は嬉しくありません。

もうひとつ、時間軸の話。連載中「最初はアホみたいなプロンプトでいい」と繰り返してきました。あれは本心です。第2回の「わがまま」がそうだったように、入口は雑でいい。むしろ雑なほうがいい。設定も同じで、最初は素のまま、緩いままで始めて構いません。完成物が固まってくるにつれて、プロンプトも設定も厳密にしていく。雑から厳密へ——これが生成AIとの付き合い方の基本線だと思っています。

ちなみにこの連載の再現スクリーンショットは、あえて標準設定で撮り直しました。初心者は標準設定で始めて何の問題もない、と示したかったからです。スパルタ設定は、あなたのシステムが育ってきてからで間に合います。


小技②:引き継ぎ書のススメ——AIとの作業は「まとめさせながら」進める

第4回で「適宜、議論と決定事項をAIにまとめさせてストックする」というコツを書きました。あれを、もう一段深掘りします。

理由は2つあります。1つ目は単純で、自分が忘れるから。AIとの作業はとんでもないスピードで進むので、「あれ、この条件なんでこうしたんだっけ」が3日で分からなくなります。まとめを取っておけば、そのまとめをAIに投げ直して「解説して」で復元できる。

2つ目が本題で、チャットは長くなるほど不利になるからです。1つのチャットで延々と作業していると、会話がどんどん溜まっていく。AIには一度に扱える情報量の上限があって、話が積み上がるほど、その枠を過去のやり取りが圧迫していきます。要するに、長話は劣化するんです。人間の会議と同じですね。

そこでおすすめなのが、チャットを乗り換えるタイミングで「引き継ぎ書」を作らせることです。「ここまでの決定事項、未解決の課題、次にやることをまとめて。新しいチャットに引き継ぐ」と頼む。出てきた引き継ぎ書を新しいチャットの最初に貼れば、AIは何事もなかったかのように続きから走り出します。担当者が交代する会社の引き継ぎと、まったく同じ構造です。

そして、ここでもうひとつ種明かしを。

この連載自体が、その引き継ぎ書で書かれています。第0回を含めた全10本、1つのチャットで書き切れる分量ではありません。何度もチャットを乗り換えて、そのたびに引き継ぎ書を作らせて、次のチャットに渡してきました。この連載は、引き継ぎ書と、私の記憶と、Claudeの文章力に支えられています。いま読んでいるこの文章が、この小技がちゃんと機能する証拠です。


小話①:RSI取り違え事件——バグが発見に化けた話

セカンドオピニオンの話は連載で何度もしてきましたが、一番効いた実例をまだ話していませんでした。

まず、私のセカンドオピニオンの型はこうです。いつも使っているAIに「コードに実装しているはずの戦略」を文章でまとめさせて、そのまとめとコード本体をセットで、別のAIに投げる。「この戦略とこのコード、一致していますか?」と。仕様書とコードの突き合わせを、利害関係のない第三者にやらせるわけです。

ある日、これをやったら、指摘が返ってきました。

前提を少しだけ。売られすぎの指標として連載に何度も登場したRSIには、実は計算方式が複数あります。値動きを単純に平均する方式と、考案者ワイルダー流の、直近を滑らかに重みづけする方式(Wilder方式)。数字は似ますが、同じではありません。

私は全部を単純方式で統一していた——つもりでした。というより、方式が複数あることすら知らなかった。ところがセカンドオピニオンいわく、コードの一部にWilder方式が混ざっている、と。仕様とコードの不一致。つまり、バグです。

この時点で、セカンドオピニオンは仕事をしています。自分では絶対に見つけられませんでした。知らないものは探せません。

で、「修正しなければ」と方式を揃えてバックテストを回し直したんです。そうしたら——成績が少し下がりました。

……ん? 待てよ。ということは、この間違った組み合わせ、実は良かったのでは?

ふと思い立って、入口と出口のRSIの方式を全組み合わせで検証する実験をやりました。それがこれです。

RSI計算方式・全組み合わせバックテストの比較表(数値はぼかしています)
RSI計算方式・全組み合わせバックテストの比較表(数値はぼかしています)

数字はぼかしますが、結論だけ。組み合わせたほうが良い場合が、確かに存在しました。しかも、暴落時と通常時とで、最適な組み合わせが違う。相場環境によって、効くRSIの顔ぶれが変わるんです。バグとして殺すはずだった取り違えが、「相場環境ごとに指標を使い分ける」という、まったく予定していなかった発見に化けました。怪我の功名にもほどがあります。

この話のオチは、こうです。もし私が最初からAIエージェントに全部任せて、一発でバグのない完璧なコードが出てきていたら——このバグは存在せず、この発見も存在しなかった。

第0回で、私のやり方は流行りのバイブコーディングだと白状しました。コードを読まず、AIに書かせて、コピペで進める。それは今も変わりません。でも「読まない」と「手を動かさない」は別の話です。自分で貼って、自分で回して、自分で数字を眺めていたからこそ、「修正したら下がった」という違和感を拾えた。地味に手を動かすのも、悪くないものです。


小話②:裁量の門番——ルール作りは対等、守るのはおんぶにだっこ

連載を通じて「技術はAIに任せる、戦略は対等に話し合う」と繰り返してきました。最終回なので、この標語に正直な注釈を付けます。

戦略の議論は、たしかに終始対等でした。お互いに不備を指摘し合うし、私がキレることもあった。キレられたAIは、ちゃんと誤りを認めて訂正してきます(人間より潔い)。ここは胸を張って対等と言えます。

でも、もうひとつの領域——決めたルールを守り続けるメンタル面は、白状すると、最初から最後までおんぶにだっこでした。

例を2つ。

1つ目はロットの問題です。1銘柄あたりの投入額を、仮に50万円と決めたとします。きれいに守れそうでしょう? ところが株には売買単位があります。1株3,500円の銘柄が来ると、100株で35万円、200株で70万円。50万円ぴったりが、この世に存在しない。さあどっちにする?——この「どっちにする?」こそが、裁量の入口です。その日の気分で、自信のある銘柄は200株、なんとなく不安なら100株。こうしてルールの隙間から、裁量がするすると侵入してくる。

私がこれをAIに相談したとき、返ってきたのは判断の代行ではありませんでした。叱られた、というのとも違う。「その場その場で決めるのではなく、システムとして事前に合意を取り、それを運用すべきです」と、諭されたんです。結局、上限額を決めて、はみ出しそうなときは都度AIに相談して許可を取る、というルールで合意しました。ポイントは、例外処理まで含めてルール化したことです。裁量に見える判断を、裁量の外に出した。

2つ目は、決済です。第6回で「決済に人間の判断を入れてはいけない、とGeminiに口酸っぱく指導された」と書きました。深掘りすると、あれはシステムトレードの根幹そのものです。「まだ上がるかも」「これはやばいかも」——保有中の銘柄は、毎日あなたに話しかけてきます。そして私は、この囁きに、昔から滅法弱い。デイトレ時代に負けた理由の半分はこれだと思っています。

だから、そこをAIに支えてもらいました。ルール外のことをしようとすると、軌道修正するように促してくる。冷静で、感情がなくて、私の「今回だけは特別」を1ミリも聞いてくれない同居人。システムトレードの本には「規律を守れ」と書いてあります。守れないから苦労しているんです。規律は、根性で守るものではなく、門番を雇って守らせるもの——これが私の結論です。私の場合、その門番は月3,000円で雇えました。


小話③:今、ゼロからやり直すなら

道具の話も、最後に本音をアップデートしておきます。第1回で書いたとおり、私はGeminiをメインの開発パートナー、Claudeをセカンドオピニオンとして始めました。あの構成に後悔はありません。ただ、2026年7月のいま、もう一度ゼロからやるなら、と聞かれたら答えは少し変わります。

設計・実装・戦略の議論はClaude。日々の定性スクリーニングはGemini。この分担にすると思います。連載で書いたとおり、検索がらみの定性判断はGeminiが強い。一方で、腰を据えた設計や分析の壁打ちは、Claudeのほうが噛み合う場面が多かった。コツコツ作るなら通常プランの範囲で足りるはずですし、短期集中で一気に組み上げるつもりなら、上位プランを一時的に契約するのも検討の価値があります。数ヶ月で解約すればいいだけの話です。

なお、ChatGPTもかなり良いという評判は方々から聞きます。私は今回の開発では使っていないので無責任なことは言えませんが、選択肢に入れて損はないはずです。結局のところ、第1回で書いた結論に戻ります。どれか1つに絞るより、2つ使って相互チェックさせる。その2つのうち1つは、私ならClaudeにします。


締め——個別株の、外側

連載全体を締めます。

前回、NT倍率の話をしました。日経平均は上がっているのに自分の株は上がらない。その違和感の正体は、個別銘柄のチャートをいくら眺めても見えませんでした。答えは個別株の外側——相場全体の構造の中にあった。

システムを止めたあの経験から、私の習慣は変わりました。シグナルの数字だけでなく、市場のお金がいまどこに集まっていて、どこに回っていないのか。その構造を毎日眺めるようになった。そして眺めるうちに、自分用の観測所が欲しくなって、作りました。相場の構造を可視化するダッシュボードです。——そう、いまあなたが読んでいる、このサイトのトップページに並んでいる、あれです。

第0回で白状したとおり、この連載の目的は、このサイトに来てもらうことでした。お気づきでしょうか。あなたはもう、来ています。目的は達成されました。ありがとうございます。

連載はここで終わりますが、私の定点観測は毎日続いています。トップページのダッシュボードが、そのまま「筆者の現在地」です。毎朝更新されているので、いつでも覗きに来てください。

→ トップページのダッシュボードを見る

それでは、最後のまとめです。


今回のまとめ

  1. 生成AIの設定は雑から厳密へ。お金の判断には共感を切る厳格モードを仕込み、作業中はオフにしてメリハリをつける
  2. AIとの長い作業は引き継ぎ書で乗り継ぐ。チャットは長くなるほど不利。この連載自体が引き継ぎ書で書かれている
  3. セカンドオピニオンは「戦略のまとめ+コード」をセットで別AIへ。バグが発見に化けることもある。手を動かす者だけが違和感を拾える
  4. ルール作りは対等に、ルールを守る規律は門番(AI)に任せる。例外処理までルール化して、裁量を裁量の外に出す
  5. 頭の中の「あの戦略」は、動かせます。まずはAIに、あなたのわがままを話してみてください

長い連載にお付き合いいただき、ありがとうございました。あなたの暗黙知が、システムになりますように。


免責事項:本記事は筆者の実体験に基づく情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄・手法・サービスへの投資や購入を推奨するものではありません。記事中のAIサービスの評価は筆者個人の使用感であり、各サービスの性能を保証するものではありません。過去の検証結果・運用成績は将来の成果を保証しません。投資判断はご自身の責任でお願いします。